オルリスタット (アライ®︎)は肥満改善薬のダイレクトOTC*として注目を集めており、『内臓脂肪・腹囲の減少薬』としてR6年4月8日より発売予定です。
今回の記事では、オルリスタット (アライ®︎)の効果や副作用、対象者の条件といったメーカー情報に加え、作用機序や副作用などを化学ベースで解説します。
*ダイレクトOTC:医療用医薬品として承認された有効成分が医師による処方を必要とせず、一般用医薬品(OTC)として直接(ダイレクト)に市場で販売される医薬品
アライ®︎ (オルリスタット)について
アライ®︎の有効成分である「オルリスタット」は、海外ではすでに120mg規格のものと60mg規格のものがあり、120mgは医療用医薬品として処方され、60mgはOTC(一般用医薬品)として販売されているようです。
日本で承認された有効成分オルリスタットの商品「アライ®︎」は海外のOTCと同量規格(オルリスタット60mg)のものです。
ダイレクトOTCの要指導医薬品
アライ®︎は、すでに諸外国でもOTC(一般用医薬品)として市場に出回っており、消費者である国民が薬局などの店頭で購入できる医薬品です。
このたび、日本国内でもダイレクトOTC医薬品という形で販売が開始されます。
しかし、買いたい人が買いたいタイミングでいつでも購入できるわけではないことに注意が必要です。
『要指導医薬品*』といって薬剤師の対面による説明が義務付けられており、条件を満たした方が同意の上で購入する必要があります。
*要指導医薬品:使用希望者の選択により使用されることが目的の医薬品で、薬剤師が対面かつ書面を用いて使用者本人に説明することが義務付けられている医薬品
薬剤師のいる店舗で、使用者本人に薬剤師が書面にて対面で説明をする義務があるため、事前に薬剤師のいる店舗や使用するための条件などを確認しておくと良いでしょう!
アライ®︎ の作用と効果
気になるアライ®︎の作用と効果ですが、“単なる痩せ薬ではない“ことに注意しましょう。
食事から摂取した脂肪(トリグリセリド)は消化管内の“リパーゼ“という酵素によってグリセロールと脂肪酸に分解され体内へ吸収されます。
アライ®︎はこのリパーゼの働きを阻害することで、脂肪の分解を抑え、食事由来の脂肪のうち約25%が体内へ吸収されるの防ぎ便として排泄させる作用を持ちます。
食事と運動の実施を前提条件とした試験では、体重減少や内臓脂肪減少といった効果を期待できるようですが、そうした意味も含め、生活習慣を見直し改善しながら+αでサポートするための薬と理解していた方が良いです。
後ほど「アライ®︎を使用できる人」で説明しますが、まず腹囲が男性85cm未満、女性90cm未満の方は使用できませんので、「美容のためのダイエット薬」をイメージしている方は厳しいでしょう。
アライ®︎ の副作用と薬物相互作用
副作用は主作用に関連したものが多いようです。
食事由来の脂肪を便として排泄させるため、便や油の漏れ、脂肪便といった便排泄の異常が副作用の多くの割合を占めています。
そのほか、併用している薬の種類によっては同時に内服すると吸収が悪くなったり効果が落ちる可能性のものもあるため、服用のタイミングをずらしたり併用してはいけないものなど、かかりつけの医師や薬剤師にも相談するようにしてください。
アライ®︎ を使用できる人
では、肝心のどんな人がアライ®︎を使用できるのか、ですが、、、
率直に言って、当てはまる方はそんなに多くないのではないでしょうか。
※メーカーのチェックシートで事前にご確認ください。
チェックシートを確認するとわかるように
・18歳以上
・腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上
・生活習慣(食事・運動)の改善:3ヶ月以上前から取り組んでおり、直近1ヶ月の取り組みの記録を確認
と記載されていて、特に3番目の確認事項で多くの方が脱落しそうですね、、。
また、BMI25〜35未満の方でも、チェックシートの別紙Aに記載されている疾患を診断されている場合はアライ®︎を服用することができません。
つまり「すでに肥満による種々の合併症や肥満に関連する疾患の治療を受けている方は、その治療を優先して本剤を使用しないでください」と解釈できます。
使用できるかどうかも含めて、かかりつけの医師や薬剤師に相談してみてもいいかもしれませんね。
アライ®︎を服用するにあたり必要な「生活習慣記録」のシートも、メーカー作成のものをリンクさせておくので必要な方は印刷し活用してください。
(BMIの早見表も載っているので、ご自身の身長と体重から該当するか確認しておきましょう)
オルリスタット (アライ®︎)の化学構造と特徴
では、ここからは私の本来のブログの趣旨である「化学構造と特徴」です。
有効成分のオルリスタットはすでに海外で使用されており、化学構造式を見てもいろいろなことがわかるので参考にしてみてください。
オルリスタット の化学構造式
オルリスタットは中心にラクトンと呼ばれる環状エステルをもち、4員環で歪みも大きい化合物です。
ラクトンから伸びる炭素鎖のうち長い方にはアミノ酸のロイシン(Leu)がホルミル化した(アルデヒドとなった)形で付いています。
脂溶性が高く水にほとんど溶けないのも納得の構造ですね!
オルリスタット (アライ®︎)の作用機序と副作用
オルリスタットの作用機序は「アライ®︎の作用と効果」のところで説明したように中性脂肪(トリグリセリド)を分解するリパーゼの阻害です。
リパーゼのセリン(Ser)残基の–OHがラクトンのカルボニル炭素に求核攻撃しエステルを形成することで、リパーゼが中性脂肪のエステルを分解できないようにします。
FDA承認薬データベースを参考にすると、オルリスタットのリパーゼ阻害作用は【可逆的阻害】であるため、形成したエステルが加水分解されることでオルリスタットの作用が消失し、リパーゼ活性も元に戻るものと推測できます。
また、主な副作用として、食事由来の脂肪を便とともに排泄させるため、便や油の漏れ、脂肪便といった便排泄の異常が見られます。
オルリスタットが上図のように反応しリパーゼを阻害するため、分解されなかった脂肪はそのまま出てきてしまうのです。
オルリスタット の薬物動態
薬物動態は薬が体に投与されてから排泄されるまでどのような経過をたどるか考えるための重要な分野です。
化学構造とリンクしやすい分野でもありますが、ここでは米国のDrugs@FDA(FDA承認薬データベース)をもとに簡単に記載していきます。
吸収
オルリスタットはほとんど吸収されないため全身作用への影響は非常に小さい。
分布
in vitroでは99%を超えるオルリスタットが血漿タンパク質と結合した状態。
代謝
オルリスタットのβ-ラクトン環が加水分解で開環した「M1」と、M1がさらに代謝された「M3」の2つが主な代謝物。
(M3はおそらくN-ホルミルロイシンのエステル部分が加水分解されたものだろうと推測できます)
排泄
経口投与したオルリスタットのおよそ97%が糞中に排泄され、そのうち83%は未変化体のオルリスタット。
累積尿中排泄率は2%未満で、糞中・尿中排泄あわせて3〜5日で完全に体内から消失。
追記. オルリスタット とエゼチミブ(ゼチーア®︎)は似ている?!
構造式がどことなく似ているのです。
(実際には、平面で見ると似ているようにも見える、というだけなのですが笑)
作用機序はオルリスタットが膵リパーゼの阻害で、エゼチミブは小腸コレステロールトランスポーターの阻害です。
ゼチーア®︎錠のインタビューフォームを見ても「エゼチミブはトリグリセリドの代謝(膵リパーゼ活性)並びに遊離脂肪酸の吸収には影響を及ぼさなかった」と記載があり両者は別物です。
これといって参考になるような文献もありませんが、構造的には“少し遠い親戚“くらいにはなりそうなので、興味で載せてみました笑
参考
- アライ®︎商品情報サイト 大正製薬
- ORLISTAT capsule|DAILY MED
- Valerie E Fako, et al. Mechanism of Orlistat Hydrolysis by the Thioesterase of Human Fatty Acid Synthase. ACS catal. 2014 Oct 3;4(10):3444-3453.
- Kengo Kitadokoro, et al. Crystal structure of pathogenic Staphylococcus aureus lipase complex with the anti-obesity drug orlistat. Sci Rep. 2020 Mar 25;10(1):5469.