はじめに
従来のスピロノラクトンやエプレレノンはステロイド骨格を持ち、ステロイドホルモン受容体への作用による副作用が懸念され、それを克服するためエサキセレノン(ミネブロ®︎)が上市されました。フィネレノン( ケレンディア®︎ )はステロイド骨格を持たない2剤目のMR拮抗薬でDHP系Ca拮抗薬に非常に類似した構造を持っているのです。
化学構造式の観点から解説していきます。
ミネラルコルチコイド受容体(MR)
MRは心臓や血管以外に、主に腎臓の遠位尿細管などに発現しており、代表的なミネラルコルチコイドであるアルドステロンが結合するとNa+再吸収により血圧が上昇します。既にMR拮抗薬としてスピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノンなどが上市されています。
MR拮抗薬の化学構造の比較と特徴は過去記事もご参照ください。
cf. ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の化学構造と特徴
フィネレノン ( ケレンディア®︎ )の現況
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)に適応
FIDELIO–DKD試験やFIGARO–DKD試験では、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者を対象にプラセボと比較して有意に改善することが確認されました。
非糖尿病性の慢性腎臓病(CKD)患者にも第Ⅲ相試験の対象を拡大!
バイエル薬品は第Ⅲ相FIND–CKD試験で非糖尿病性CKD患者1500人を対象に、標準治療(ACE阻害薬、ARBの最大忍容量)に上乗せしたフィネレノンについてプラセボ比較するようです。
非糖尿病性CKD患者におけるCKDの進行に関して、ガイドラインで推奨されている治療に上乗せしたフィネレノン(臨床開発中)の有効性と安全性を検討する多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照第III相臨床試験 FIND-CKD を開始したことをお知らせします。本試験の主要目的は、非糖尿病性CKD患者における腎疾患の進行抑制に関し、プラセボに対するフィネレノンの優越性を検証することです。主要評価項目は、ベースラインから3 カ月までの全期間の推算糸球体濾過率(eGFR)スロープで表される平均変化率です。
〜中略〜
FIND-CKD 試験では、高血圧や慢性糸球体腎炎(腎臓の炎症) を含む非糖尿病性患者を対象に、フィネレノンの効果を検討します。
バイエル薬品株式会社 News Release 2021.9.21より引用、抜粋
cf. フィネレノンの第III相臨床試験プログラムを非糖尿病性の慢性腎臓病 患者に拡大 バイエル薬品 News Release 2021.9.21
https://www.pharma.bayer.jp/sites/byl_bayer_co_jp/files/news2021-09-21.pdf
この辺りもどうなるか注目ですね!
フィネレノン ( ケレンディア®︎ )の化学構造と特徴
従来のスピロノラクトン(アルダクトン®︎)やエプレレノン(セララ®︎)などは構造式にステロイド骨格を含むため、MR以外のステロイドホルモン受容体への作用による副作用が懸念されていました。
それを克服するため上市されたのがエサキセレノン(ミネブロ®︎)で、今回のフィネレノンはステロイド骨格を持たない2剤目のMR拮抗薬となります。
フィネレノン ( ケレンディア®︎ )はDHP系Ca拮抗薬に化学構造が酷似⁈
DHP系Ca拮抗薬の構造比較の記事でも紹介しましたが、フィネレノンはDHP系Ca拮抗薬に非常に似た構造を持っています。
というのも、in vitroでは、DHP系Ca拮抗薬にはMR拮抗作用も持つ可能性があるとされ、フィネレノンがDHP系Ca拮抗薬をモデルに開発が進められたのもあり、化学構造が似ているのはもはや必然と言えるかもしれません。
画像はMR拮抗作用を持つとされるCa拮抗薬のフェロジピンと、MR拮抗薬のフィネレノン。
非常に似ています。こう見るとフィネレノンにもCaチャネルの拮抗作用があるのではないかと考えてしまいますが、今のところそこまでの情報はありません。
現状、化学構造がとても似ているので、構造式的にはCa拮抗薬との併用に注意する必要性も感じます。
2022年4月現在、日本でもついに承認されましたが、Ca拮抗薬の併用に関して、添付文書、インタビューフォームの相互作用等にも特に言及はありません。今後研究が進めば何かわかってくるでしょうか。
cf. ジヒドロピリジン(DHP)系Ca拮抗薬の化学構造と特徴
フィネレノン の代謝とCYP相互作用
フィネレノンの代謝経路をインタビューフォーム(IF)で確認すると、DHP系Ca拮抗薬と同じ部分で酸化反応が進んでいることがわかります。(やはり似ているんですね)
インタビューフォーム(IF)
添付文書では『CYP3Aを強く阻害する薬剤と併用禁忌』となっていて、これもDHP系Ca拮抗薬の特徴を受け継いでいるようです。
フィネレノンの分配係数はlogD=2.8(pH7.4)と脂溶性も比較的高く(DHP系自体が高め)、CYPを強く阻害する薬剤と併用禁忌、グレープフルーツジュースにも注意しなければならないことも納得できます。
フィネレノン と ファーマコフォア(化学構造と相互作用)
ファーマコフォアの情報も出ていたので整理してみます。
フィネレノンの大きな特徴は分子全体としてMRポケットによくフィットしていること。
エサキセレノン(ミネブロ®︎)が非常に高いMR選択性を持つのが、Ser810との水素結合や受容体にぴったりハマる分子サイズ・形であるのと同じで、フィネレノンもSer810との水素結合と分子全体で多数のファンデルワールス相互作用を形成し、受容体によくフィットする構造が高いMR選択性を持つ理由と考えられています。
スピロノラクトンと比較しても、赤で囲んだ部分が受容体によりフィットしているようです。
(3次元的に見ると、フィネレノンはスピロノラクトンと直交する形でMRと相互作用する)
また、フィネレノンの場合は–CH3や=O(黄色部分)がAla773と相互作用しMR選択性を高めるのに寄与しています。
in vitroのアルドステロンによるMR賦活化の阻害活性(IC50)は、フィネレノンの方がスピロノラクトンよりわずかに強く(それぞれ17nM、28nM)、これを臨床量で比較すると、
エサキセレノン(5mg)≒スピロノラクトン(100mg)>フィネレノン(20mg)>エプレレノン(100mg)
となりそうです。
ただ、そもそも適応が異なるので単純に阻害効果のみを見てもあまり意味はないのですが、一応参考までに。
構造のまとめ
- Ser810との水素結合
- MR受容体にハマる分子サイズ・形
- 多数のファンデルワールス相互作用
これらがMR拮抗作用と選択性に非常に重要で、MR拮抗薬に共通した化学構造の目安となります。
参考:
・Enantioselective Total Synthesis of (-)-Finerenone Using Asymmetric Transfer Hydrogenation. Andreas Lerchen., et al. Andew Chem int Ed Engl. 2020 Dec 14; 59(51): 23107-23111.
・Finerenone Impedes Aldosterone-dependent Nuclear Import of the Mineralocorticoid Receptor and Prevents Genomic Recruitment of Steroid Receptor Coactivator-1. Larbi Amazit., et al. J Biol Chem. 2015 Sep 4; 290(36): 21876-89.
・バイエル薬品株式会社 News Release フィネレノン
・ケレンディア®︎錠 インタビューフォーム(IF)