【コエンザイムQ10( CoQ10 )の化学構造式と特徴】作用機序や副作用、飲み合わせを解説!

薬の化学構造と特徴 番外編

コエンザイムQ10 ( CoQ10 )は今やサプリメントとして定番の成分ですが、やはり飲み合わせなども気になりますよね!

今回はCoQ10の化学構造式から作用機序や副作用、医薬品との飲み合わせ(相互作用)なども確認してみます。

この記事を読んでわかること

・コエンザイムQ10(CoQ10)の化学的な特徴
・電子伝達系におけるCoQの役割と作用機序
・CoQ10サプリと医薬品の飲み合わせ
・CoQ10の副作用
・CoQ10の医療用医薬品とサプリメントの違い

・CoQ10サプリを試したい方向けの商品

健康食品・サプリメントと医薬品の間で起こる問題を化学構造式の観点から解説した記事もあるので、ご興味あればこちらの記事もご覧ください!

↓↓↓

【紅麹( モナコリンK )とスタチン系薬剤】薬学で見る紅麹問題〜化学構造式とファーマコフォア〜

コエンザイムQ10 ( CoQ10 )とは?

「 コエンザイムQ10 」の名前をよく目にするものの、実際どんな物質でどんな機能があるのか、わからない方も多いと思います。

生化学を勉強した方なら電子伝達系に関与することは知っていると思いますが、今一度、簡単に説明します。

コエンザイムQ10 ( CoQ10 )の化学構造式

CoQはユビキノンとも呼ばれ、ベンゾキノン骨格を持ち、炭素数5を基本単位とするイソプレンの繰り返し構造(イソプレノイド鎖)を持っています。

コエンザイムQ10の化学構造式
CoQ10の化学構造式

実際にはイソペンテニルニリン酸が重合し繰り返された形の化合物となっています。

異性体の関係にあるIPPとDMAPP
異性体の関係にあるIPPとDMAPP

生体内ではイソペンテニルニリン酸(とその倍数で重合した化合物)の重合反応によって種々のイソプレノイドが合成されます。

IPPとDMAPPの反応
IPPとDMAPPの反応

キノン構造やイソプレノイド鎖の長さによってさらに細かく分けられますが、CoQ10はベンゾキノン骨格にイソプレンが10個付いたイソプレノイド鎖を持つ化合物のことで、CoQ10は医療用医薬品にも「ユビデカレノン」という名称で存在しています。

yuya.T@薬剤師

CoQ10の化学構造式を見ると、長いイソプレノイド鎖を持つことがわかりますね!

後ほど説明しますが、これもCoQ10の作用に重要な役割を果たしています。

呼吸鎖と電子伝達系、酸化的リン酸化

“呼吸鎖”とは細胞が酸素(O2)を利用して好気呼吸を行う過程の一つで、最終的にプロトン(H+)の濃度勾配エネルギーを利用し、あらゆる細胞で利用可能なエネルギーであるATP(アデノシン三リン酸)を生成する仕組みを指します。

画像引用:wikipedia (解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の模式図)

一方、電子伝達系とは呼吸鎖に含まれる一つの過程を表します。

電子伝達系は酸化還元反応を利用し分子間で電子を移動させながら、ミトコンドリア内のH+をミトコンドリアの内膜と外膜の間(膜管腔)へ汲み出す過程です。

酸化的リン酸化は、電子伝達系により汲み出され膜管腔に蓄積したH+が、濃度の高い膜管腔から濃度の低いミトコンドリア内に流れていく過程で、その濃度差と膜電位のエネルギーを利用してADPをリン酸化しATPを合成します。

電子伝達系 と CoQ

CoQは生命活動に必須のエネルギー(ATP)を生み出す呼吸鎖のうち、電子伝達系において電子を受け渡す役割を持っています。

電子を授受したり、プロトン(H+)をミトコンドリア膜に透過させるタンパク質は「呼吸鎖複合体」と呼ばれ、電子伝達系では複合体Ⅰ〜Ⅳが関与しています。

簡単な電子伝達系の流れとCoQの関係は以下の通りです。
① CoQが複合体Ⅰから受け取った電子を複合体Ⅲに渡す
①‘ CoQが複合体Ⅱから受け取った電子を複合体Ⅲに渡す
②電子を受け取った複合体Ⅲがシトクロムcを介して複合体Ⅳに電子を渡す

電子伝達系の仕組み
画像引用:wikipedia 電子伝達系の仕組み

CoQは細胞のエネルギー源であるATPを生み出す過程のうち、電子伝達系において複合体ⅠやⅡから複合体Ⅲへ電子を移動させる重要な役割を担っています。

CoQ10 と医薬品の相互作用(飲み合わせ)

CoQ10をこれから飲みたい、試してみたいという方の中に、すでに医師に処方されている医療用医薬品を使用中の方もいるかもしれません。

そこで気になるのが医薬品との飲み合わせ(相互作用)でしょう。

注意が必要な併用薬も化学構造式の観点から解説していきます!

ワルファリンとの併用に注意?!

医薬品情報が載っている添付文書やインタビューフォームにはワルファリンとの併用に注意すべきとする旨の記載はありません。

しかし、海外の症例でワルファリンの効果が低下したとの報告もあるため、一応の注意は必要とされています。

ワルファリンは血液凝固を抑える薬なので、ワルファリンの効果が弱まると血栓ができやすくなってしまいます。

ワルファリンとビタミンK

ワルファリンはビタミンKの働きを抑えることで血液凝固因子の活性化を阻害する成分です。

今回の趣旨ではないので割愛しますが、ワルファリンの作用もビタミンKとの構造類似性が重要なポイントとなっています。

ワルファリンとビタミンKの化学構造式
ワルファリンとビタミンKの化学構造式

CoQ10 はビタミンKに似ている?!

さて、CoQ10がワルファリンの作用を低下させる機序については「不明」とされているものの、そんな時は化学構造式を見ればおよそ察しがつきます。

CoQ10とビタミンKの化学構造はとても似ているのです!

化学構造が似ていれば似た作用を示す、とは限りませんが、”ワルファリンの作用を弱める可能性がある”という既出の事実を説明するために化学構造式の観点は大変有用です。

ビタミンKとCoQ10の化学構造式の比較
ビタミンKとCoQ10の化学構造式の比較

ワルファリンは肝臓で血液凝固因子がつくられるのを阻害します。

CoQ10がワルファリンの作用を低下させることは、すなわちCoQ10が肝臓においてビタミンKの代わりとして機能してしまうことを意味します。

医薬品添付文書にCoQ10とワルファリンの併用注意はありませんが、用量の問題もあり、日本国内で売られているサプリメントは医療用医薬品よりCoQ10含有量が高い、ということにも特段の注意を払うべきなのです。

(これも日本の政治によって、食薬区分やそれに関する制度が非常におかしなことになっているんですよね..)

スタチン系薬剤と併用すると良い?

CoQ10を生合成するイソプレノイド経路にはメバロン酸経路と呼ばれるものがあります。

そして、コレステロール低下薬であるスタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、このメバロン酸の生合成を阻害することでLDL-Cを下げます。

したがって、理論上はスタチン系薬剤の作用機序からCoQ10の生合成が阻害される可能性を持っています。

しかし、スタチン系とCoQ10が互いに与える影響を考えるにはまだまだ研究段階で、見解も定まっておらず不明な点が多いようです。

CoQ10 の副作用

医療用医薬品ユビデカレノン(ノイキノン®︎)の情報を参考にすると、主な副作用として以下のような消化器症状が挙げられます。

  • 胃部不快感0.39%
  • 食欲不振0.24%
  • 嘔気0.19%
  • 下痢0.11%
  • 発疹0.17%
    となっており、いずれも発生頻度はかなり低いです。

CoQ10特有の発生リスクの高い副作用は知られていませんが、市場に出回っているCoQ10のサプリメントは医療用医薬品として服用するCoQ10の用量を大きく上回っており、実際には副作用を起こす割合がもっと高い可能性や、報告されていないだけで別の副作用が発生している可能性すらあるため注意が必要です。

CoQ10 の化学構造と特徴

さて、改めてコエンザイムQ10(CoQ10)の化学構造と特徴を確認してみましょう!

冒頭でも述べたように、ベンゾキノン骨格とイソプレノイド鎖のどちらにも重要な役割があります。

電子と水素を授受する「ベンゾキノン」

CoQのベンゾキノン部分は、呼吸鎖複合体ⅠやⅡにおいて、解糖系・クエン酸回路で生成したNADHやFADH2の水素と電子を受け取り、呼吸鎖複合体Ⅲへ渡す働きがあります。(H+はミトコンドリア膜管腔へ放出)

複合体ⅠやⅡとの酸化還元反応によって電子と水素を受け取ったベンゾキノンはユビキノールに還元され、複合体Ⅲでユビキノールが水素と電子を放出し酸化されます。

このように、CoQのベンゾキノン部分には電子と水素を伝達する役割があるのです。

細胞膜に親和性の高い「イソプレノイド鎖」

これも構造式を見ればわかるように、イソプレノイド鎖は脂溶性が高いため、脂質二重層であるミトコンドリア膜に親和性が高く、CoQを固定する役割があります。

イソプレノイド側鎖がCoQをミトコンドリア膜に固定し、ベンゾキノン部分が電子と水素のやり取りをするわけですね!

酸化型 CoQ10 と 還元型 CoQ10

健康食品・サプリメントでCoQ10を含む商品はたくさんあり、『還元型CoQ10』をパッケージにして訴求する商品も多いです。

基礎研究において、ある種の疾患では還元型CoQ10の濃度が低いと言われていますが、臨床的には不明な点も多く、サプリメントとして摂取するにしてもどの程度「還元型」の作用を期待できるかはわかっていません。

以下に酸化型CoQ10と還元型CoQ10の構造式を示します。

酸化型CoQ10、ユビキノンの構造式

還元型CoQ10、ユビキノールの構造式

酸化型と還元型は電子伝達系の中でプロトン(H+)と電子(e)のやり取りによって相互変換を繰り返しています。

還元型CoQ10が商品パッケージで訴求されるのは、体内の活性酸素種やフリーラジカルが細胞や分子に酸化的なダメージ(酸化ストレス)を与えるのを、還元型CoQ10自身が酸化され身代わりになることで軽減することを期待するためです。

そもそも普段の生活でCoQ10が不足することはあまりないとされているのですが、加齢によるCoQ10の減少が気になるのであれば、体調不良にならない範囲で摂取することは個人の自由で良いでしょう。

医療用の CoQ10 「ユビデカレノン」との違い

CoQ10の医療用医薬品とサプリメントの最も大きな違いは「1日服用(摂取)量です。

医療用医薬品のユビデカレノンは1日あたり30mgですが、サプリメントのCoQ10は1日あたり100mg以上摂取する商品も多くあります。

厚生労働省は医療用医薬品である1日30mgを超えない量の摂取にするよう通知を出しており、サプリメントに対する規制の甘さがうかがえます。

CoQ10 サプリを試したい方向けの商品

CoQ10サプリの1日摂取量が医療用CoQ10の1日服用量に近い商品を選びました。

商品によって1日100mg以上の摂取量になってしまうものがあったり、さらに多いものだと数千mg配合のものもあります。

さすがにそれほどの量はおすすめできません。

裏を返せば、それほどの量が必要なら何かしら病的である可能性の方を考慮すべきで、病気であればサプリメントに頼らず、まずは標準治療を受けてくださいね!

佐藤製薬【サトウQ10】

医療用CoQ10の1日服用量に等しいCoQ10のサプリメントです。

試すならこちらが良いでしょう!

小林製薬【コエンザイムQ10・α-リポ酸・L-カルニチン】

こちらの商品に含まれるCoQ10量も、医療用CoQ10と同じ30mgです。

他の成分も同時に取りたい場合にはこちらが良いでしょう。

大塚製薬ネイチャーメイド【CoQ10】

こちらは2粒で60mgです。

目安として1日2粒飲むようですが、医療用CoQ10の1日服用量を超えないために、1日1粒(30mg)で良いでしょう。

最後に

いかがでしょうか?

CoQがかかわる電子伝達系は少々専門的な分野であるため、履修していなければ理解するのもかなり難しいのではないでしょうか。

また、健康食品やサプリメントは食品に分類されるため、どうしてもその安全性が軽視されてしまいがちです。

改めて健康食品やサプリメントでも医薬品との飲み合わせに注意が必要なことを意識してみてください。

それでも試してみたい、飲んでみたいという場合には、飲み合わせに問題ないことを確認した上で、医療用CoQ10の1日服用量(30mg)を超えない量で摂取することをおすすめします。

あわせて読みたい記事

参考:

  • Makoto Kawamukai. Biosynthesis of coenzyme Q in eukaryotes. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 80, Issue 1, 2 January 2016, Pages 23–33.
  • Makoto Kawamukai. Biosynthesis and applications of prenylquinones. Biosci Biotechnol Biochem.2018 Jun.
  • 小倉京三、古山種俊「イソプレノイドの生合成」高分子32巻12月号(1983)
  • コエンザイムQ10(厚生労働省HP)
  • ノイキノン®︎錠 医薬品インタビューフォーム
  • Makoto Kawamukai. Biosynthesis and applications of prenylquinones. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 82, Issue 6, 3 June 2018, Pages 963–977.
  • 今田伊助、井上正康「CoQおよび関連医薬品の研究開発小史と今後の問題」薬史学雑誌48(2) 160-165(2013)

タイトルとURLをコピーしました